黒姫
ドスっと嫌な音が、腹から聞こえる。
胃から何かが逆流してくる感覚に、咄嗟にそれを飲み下した。
「かは……っ、」
飲み下したところで、再び拳を喰らって、流石に一瞬意識が飛びかけた。
何とか意識はつなぎ止めて、何故かぐらつく視界に、クラスメートの姿を映す。
何かが可笑しい、とその時漸く気付いた。
下駄箱から引きずられ、やや離れたとは言え、人目につきやすい場所での暴力。
にも関わらず、誰も止めようとはしない。
生徒はまだしも、教師まで。
……まあ所詮、教師も人間だということか。
今まで天宮財閥を頼ろうとしなかった瑞姫だ、ここで助けなくとも「気付かなかった」とでも言っておけば、自分が社会的に不利になることはないと判断したのだろう。