黒姫
第9章

放置されていた鞄を引っ掴んで、瑞姫は正門に向かって走った。
痣だらけであろう身体が痛むが、構ってはいられない。


「……透」


そして正門脇に透の姿を認め、立ち止まった。
珍しく睨みつけるように見られて、透は無表情のまま肩を竦めた。


「怒るなよ、瑞姫。俺が望んだことじゃない」
「でもさっきのは!」
「沢口……俺のクラスメートが勝手にやったことだよ。本人はさっさと消えたみたいだけど」


先程の声の主は沢口というらしい。
後で礼を言おう、と考えていると、透に腕を引かれた。


「痛っ……」
「あっ……悪い」


引っ張られた衝撃で身体の痣が痛み、思わず声を上げた瑞姫に珍しく、本当に珍しいことに表情を変えて透が謝る。
悔しげに唇を噛んだ彼に、瑞姫は「大丈夫」と首を振ってから「帰ろう」と告げた。

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