黒姫

「何をしている」


怒りで震える、1番上の義兄の声を聞いて、大好きな義姉の悲惨な姿を見て、心臓が止まるかと思った。



里沙が香奈の部屋を訪れたのは、10分程前のことだった。


『香奈。瑞姫が、帰ってこない』
『えー? お姉ちゃん、こんな時間にどこ行ったのぉ?』
『私が頼んだ。醤油、買ってきてって』
『あれー、醤油切れてたっけぇ? まあいいやぁ。どれくらい前なのぉ?』


里沙曰く、頼んだのは30分以上前のことだったらしい。
家からスーパーまでは徒歩10分もかからない。
醤油を買うだけで、こんなに時間を喰うわけがない。


『お姉ちゃん、寄り道なんかしないもんねぇ』
『何かあったら、……どうしよう。私が頼んだ、から』


久々に、素で泣いた里沙を見た。
それに、香奈にしたって心配だった。

理由はそれで充分だ、寝る直前だったなんてどうでも良い。


『……里沙は寝てて。那央兄ちゃんと探してくる』


語尾を伸ばしていない自分の言葉に、初めて香奈自身が本気で心配していることに気が付いた。

< 163 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop