黒姫
やや動転していた里沙は透に任せて、那央に事情を説明してスーパーに向かった。
携帯にかけた電話は、繋がらなかった。
瑞姫の携帯はたいていサイレントマナーだ。
「……天宮、那央……!?」
瑞姫を押し倒していた男が、呆然と呟いた。
那央はそこそこ有名人だ。
なまじ顔が良いだけに、報道で取り上げられることも度々ある。
それでも、普通は咄嗟には気付かない。
迷う時間もなく男が那央の名前を呟いたということは、つまり。
「狙いは俺か? 天宮か? くだらない。……今すぐ立ち去れ。今ならお前らの顔、忘れてやる」