黒姫
低い声に流石に焦ったらしい男達は、あっさりと逃げ去った。
「瑞姫!」
男達がいなくなった途端、血相を変えて那央が瑞姫に駆け寄った。
その肩に手で触れる。
「いや……っ!」
「……お姉ちゃん」
反射的に那央の手を振り払った瑞姫は、身体を抱え込むようにして小さく震えていた。
「那央兄ちゃん。先帰って、里沙にお姉ちゃん見付かったって言ってくれる? あんまり心配させないようにね。……多分今、那央兄ちゃんじゃ駄目だよ」
瑞姫の傍にしゃがみ込んだ香奈の言葉に、那央は小さく息を呑んだ。
そして唇を噛んで「……悪い、頼んだ」と言って踵を返した。