黒姫

身体を伝って流れ落ちるお湯を眺めながら、瑞姫は自らの肩を抱き込んだ。

怖かった。
幼い頃から慣れていたせいで、中々感じなかった恐怖を久々に思い出した。

暴力とは違う。
身体を滑る他人の手にぞっとして。

透でも那央でも、あんな恐怖は感じなかったと思う。
2人に触れられても、きっと暴言と軽い拳か蹴りで終わっただろう。

見ず知らずの他人。
暴力を振るったその手で、私に触れないで。


(那央兄に悪いことしちゃった……)

それでも、恐怖はあっさり薄くなっていく。
幼い頃の習性がまだ残っているから、恐怖の対象から離れたら、理性が恐怖を抑えるのは早い。

恐怖から離れた頭は、差し出された手を払ってしまった自分を悔いた。


……それでも、もう一度あんなことがあれば、同じことをした。

理性じゃない。
感情が那央を、拒否した。

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