黒姫
「ただいまーっ!」
その日は、那央も妹2人もまだ帰ってきていなかった。
珍しく純粋に微笑んだ透が、わざわざ玄関まで迎えに来て、瑞姫は彼に飛び付いた。
「透、透、あのね、」
勢い込んで何事か言おうとしたのだが、何から話せば良いのかが全くわからない。
暫し考えた挙げ句、出て来たのはこんな言葉だった。
「上手く、いったよ」
「……お疲れ様」
ぽんぽんと褒めるように瑞姫の頭を軽く叩いた透は、「手ぇ洗って来な」と瑞姫に言った。
普段なら真っ先に出て来る言葉を言わずに、瑞姫の言葉を待ってくれたのだと解った。
それだけに、良い報告が出来たことが嬉しかった。