二手合わせ
貸してもらった着物を部屋の隅にある鞄の上に乗せた。
それを見ていた永倉さんは「そういえば……」と呟いてから私に言った。
「星井は着物が着れない、と聞いたが」
「え、はい……、私の居たところでは、節目節目に着るだけですし、しかも、着付けてもらうんですよ。だから着方が分からなかったんです」
「……訊きたいことがあるんだが」
「?」
「言えないのか?その……お前のいた場所を」
少しだけ戸惑いながら言われたその言葉に、身体が硬直した。
「尋問じゃない。俺が知りたいだけなんだ」
「っ、」
「どうしても言えない……か?」
おそらく私の目を見ながら言ってるであろう永倉さんの視線から逃れるために俯く。
膝の上でぎゅっと握りこぶしをつくる。
「言いたくないわけじゃ、ないんです。どう言えばいいのか分からないんです。たぶん言っても通じないから……、だから、ごめんなさい。伝える言葉を持ってないんです」
話に聞いたことがある。
この時代には『未来』という単語すらないって……。
私が当たり前に使う単語で通じないことなんて多々あるはず。
「待つ」
「え?」
「伝える言葉を持てたら……言ってくれ。それまで待つ」
言い切った永倉さんのセリフに、目頭が熱くなった。