鳴る骨
序章―日曜日の風景
私は、いつものように海へ向かっていた。それは、数年前から続く日曜日の習慣だった。歩き慣れた道だが、目をこらすといろいろな発見がある。例えば、シャッターが下りた喫茶店の前に、毛繕いをする猫が座っている。白い毛並みを丁寧に整えているその姿に、ひととき心が和む。通りかかった公園で、遊ぶ親子をスケッチする少年がいる。その後ろ姿を見て、私ははっとして歩みを止める。そうした一瞬の情景が、あの日々、あの瞬間をまざまざと思い出させるのだ。以前は苦痛であったこうした体験は、今では愛しい。

海岸はすぐそこだ。とんびの鳴き声を聞きながら、ゆっくりと記憶を手繰り寄せる。その瞬間、過去は現在を生きるようになる。そして、私は救済されたような安心感に包まれるのだ。
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