たぶん恋、きっと愛
遮光率の高そうな暗いフィルムが貼られた、黒い、車。
さすがに運転席と助手席、フロントは、透明なガラスだが、夏の強い光は通しても、熱は通さない気がする。
革張りのステアリングは、既製の物より高価そうだ。
「いかにも悪い人の車みたい…」
「あきらかに悪い人の車ですからね」
苦笑を含み、宇田川は調子を合わせる。
「宇田川さんは悪い人なんですか?」
「凱司さんよりは、えげつない事もしてますよ」
あの人は優しいですからね、と自慢気に目を和らげる宇田川を見つめ、雅も、ふわりと笑う。
雅は、開けてもらったドアから体を滑り込ませ、知らない車の匂いと宇田川の匂いとに、僅かに緊張した。
「失礼」
運転席に乗り込んだ宇田川が身をひねり、持っていたクリアファイルを後部座席に放り投げた。
そのまま、ぐぃ、とネクタイを緩める仕草を見つめていた雅が、愉しそうに声を上げた。
「宇田川さんセクシーですね」
「はっ…そ、うですか?」
予期しなかった種類の発言に、思わず声が裏返りそうになった宇田川は、照れを隠すようにサングラスをかけ、慌ててキーを回した。