たぶん恋、きっと愛
雅は。
ルージュを引くだけにしては、現れるのが遅かった。
リビングの4人に、妙な沈黙が流れる。
凱司は新しく煙草に火をつけ、鷹野は吸い差しを押し消す。
宇田川は息子を見るでもなく見つめ、友典は、ひたすら唇を噛んで黙りこくる。
「……俺だな」
沈黙を破って立ち上がったのは、凱司だった。
誰がなだめに行くか、考えていたのは全員同じだったのだろう。
鷹野は不機嫌そうに舌打ちし、宇田川親子は、小さく息をついて、わずかに頭を下げた。
「友典。靴履いてろ。すぐ行かせる」
はい、と小さく返事をした友典がリビングを出るのを待たずに、凱司はキッチンの背後のドアに消え、すぐにきっちりと閉められた。
残された鷹野と宇田川は、ちらりと視線を交わし、どちらからともなく、ため息をついた。
「寿命が…縮まるので…あまり友典を刺激しないでください」
「そうだね、悪かった。面白い顔するもんだから、つい」
「つい、じゃ済みませんよ…友典が万が一道を外れたらと思うと…吐いてしまいそうです」
あんな甘い空気に免疫なんかないんですから、と、宇田川は両手指を絡めてテーブルに肘をつくと、その指の上に額を、伏せた。