たぶん恋、きっと愛
雅は、鏡の前にいたけれど。
化粧をする素振りはないまま、ただ、立っていた。
凱司は、曖昧に笑う雅に近付くと、その自分の胸までも届かないような頭に手を置いた。
何も言わずに俯いた雅に、つい苛立った。
「…ひあぁっ!?」
「妙な声上げんな。俯かれると顔も見えねぇんだよ」
雅の腕の下を掬い上げた凱司は、呟くようにそう言うと、そのまま高く作られた洗面台の縁に、雅を座らせた。
少し、目線が近付く。
「貸してみろ」
握られたままの、ルージュ。
毎朝見ているから、どう付ければいいか、解らなくはない。
雅の手から拾い上げたそれを、くるりと回せば、ピンクとも赤ともつかない、綺麗な色。
「自分で出来ます」
「いい」
「…だって友典さん…怒る」
「あれは妬きもちだ」
「……なんでですか…」
「仕方ないだろ」
いいから口開けろ、と雅の顎に指をかけた。