たぶん恋、きっと愛
「火、つけてあげる」
ベランダの月明かり。
鮮やかな赤の、100円ライター。
淡いピンクの、こぼれんばかりのサルスベリ。
少し、涼しくなった、夜風。
「一緒にやりたい」
「うん、俺もやるから」
嬉しそうに笑う、雅。
2つの、赤く玉になる先端を、いくら息を詰めて静かに見つめても、柔らかい音を立てて弾ける金色の火花は、ほんの僅かな間だけ。
すぐに、糸くずのような光を落とすだけになる。
雅はむしろ、その糸くずのような光が好きなのか、先端の玉が冷えて黒く変わる様までを見届けてから、うまく行きましたね、と嬉しそうに顔を上げた。
「最後の1本、やっていいよ」
コップから、たらりと水をこぼし完全に火を消すと、雅は首を横に振った。
「…凱司さん、やりたいかも」
「…凱、が?ひとりで?…1本しかない線香花火を…?」
そんな馬鹿な、とは思うが、雅は至って真面目に言っているのか、はい、と頷いた。
「取っておいていいですか?」
きっと、共有したいのだろう。
鷹野は、1本残った線香花火を元のビニール袋に丁寧に戻すと、じゃあ帰ってきたら、渡してやって、と。
多分、明日には帰って来る凱司を僅かに、羨ましく思った。