たぶん恋、きっと愛
ちょっと待って、と。
ドアを出た所で、坂崎に止められた。
雅は、気を張り詰めた顔で、ゆっくりと見上げる。
この人が誰だか、解らない。
「あなた……」
遠慮がちではあるものの、断固通さないつもりなのか、店のドアに立ちふさがったまま雅の顔を、覗き込む。
背後で、愉し気な笑みを浮かべた息吹が、店の救急箱を開けた。
「やっぱり…“雅さん”ね?」
奇妙に甲高い震える声に、申し訳なさそうに、小首を傾げた。
「……宇田川さん、ですか?」
“雅さん”って呼ぶのは宇田川さんと友典さんしかいないですもの。
ね、鷹野さんじゃなかったでしょう?と、振り返れば。
肩をすくめた息吹が、それでも愉しそうに口角を上げ、手にした絆創膏を、ひらひらと振った。
「……息吹ちゃんが…その……無理に連れて来…」
「いえ。違います。あたしが…あたしの意志で」
間違いではない。
あの時に、逃げたとしても。
到底逃げられる気はしなかったのだから。