たぶん恋、きっと愛
そこ、通してやってくれよ。
そいつの気概に免じてよ。
一度も泣かなかった上に、ほら、見ろ一樹と同じだ。
ナイフ、握りやがった。
わざわざ握りやがったんだぜ?
くすくすと笑う息吹を、坂崎の大きな目が、睨みつける。
「…息吹ちゃんは……部屋にいなさい!」
雅の手を取り、全ての指についた切り傷に、舌を這わせた息吹が、声をたてて、笑った。
「それじゃ、また会おうな」
手を離し、血の付いた唇を寄せ、そう囁いた息吹に、雅は答えなかった。
ただ、慣れたように。
当たり前の事をするように。
その唇を、受け入れた、だけ。
坂崎の厚い手が、そんな2人を引き離そうと、割り込んだ。
「もう…やめなさい」
甲高かった声が、やや低く響く。
「駄目よ、早く息吹ちゃんは戻りなさい。“雅さん”は少し、待ってちょうだいね」
もうすぐ、章介さんが来るから。