たぶん恋、きっと愛


「さあ…ジュースだけでも飲みましょう。ろくに食べていないと聞いていますよ」


病院で借りたハサミであらかたの長さをそろえた、髪。

櫛を通しはしたが、乱れた毛先が痛々しくて。

一通りの事を、途切れ途切れに、断片的に訊いていた由紀は。


“そうしたかった”という言葉の含む意味を思い、心の中だけで、小さくため息をついた。



雅は、薄いグラスの、彫り込まれた紋様を指でなぞり、差してあるストローで一度、氷を回した。



「…もう。煩いわね…。章介さんたら、ほんとに落ち着きがないんだから」


ゆっくりとストローから、雅が一口飲むのを、穏やかに見守ってから。

絶え間なく光っている携帯を取り上げ、由紀は大袈裟に肩をすくめた。


雅に見えるように液晶を見せる。



「ほら。ずっと章介さん。…あら、一樹さんまで」


ずらりと並ぶ“章介さん”の字の中に、一度だけ記されている“一樹さん”。

今まで、由紀の携帯に一度も表示されたことの無いらしい、名前。



雅は一瞬目を見開き、口元を手の甲で押さえると。

悲鳴のような嗚咽のような、奇妙な声を洩らし、液晶画面から目を、背けた。
 



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