切端詩集 断片的な虚構
百億年の不毛



『百億年の不毛』


この砂原も昔は草野だったのだろうと
砂礫に足首まで埋もれながら
天をあおぐ

ポタリポタリと頬にかかる雨
私が泣いているのかすら
もうわからない
私の涙で砂漠が緑に戻らないことは
昨日まででなんとなくわかった
だがうちひしがれるほどの天水に浸されて
一瞬取り戻したかのように見えた草野が
焼けつく炎天の下で
夢幻のようにたちどころに消え果てるのを
この目で見た

雨よもう降るな
涸れ果てた者に幻を見せるな
まるで生きているよう振りをするあなたを
生かそうとすることが答えなら
砂漠よりなにより
そのことを不毛と呼ぶのではないか?

この砂漠はもとより緑だった
だがその前は灼熱の熔岩が覆っていた
その前は深海の泥に沈み
その前は氷のひしめきあう海原だった
たまたまここで私は泣いている
百億年の不毛の一瞬を垣間見て
微分の蟻のように砂にまみれながら
はらはらと崩れ落ちる旅行者として

だが私の一滴の涙よ
お前は彼の岸に向かって走れ
何が救いなのかをこの目でみるまで
私は不毛を友に旅を続ける
死して尚そこは砂漠だろう
だが生死を超えてやってくる
弾丸のような答えを私は待つ
その弾は私の涙を火薬として
あなたを撃ち抜くはずだから











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