切端詩集 断片的な虚構
ノスタルジー



『ノスタルジー』


五感が乖離したころからマゾヒストになった
痛みだけが僕と世界との接点だった
初めて魯迅の狂人日記を読んだ夜に
初めて自分の身体を
電気のコードで叩いてみた

誰かに叩かれたい

初めて自分の身体を
電気のコードで叩いてみた時に
初めてサディストの存在意義を知った
死体に近い肉体を持て余して
この世に存在しているかどうかを
毎晩確かめる
傷跡と噛み跡と痣
痕跡だけ増えているのに消えていく痛み
もう自問自答では
確認も無理だというその日に
顔も知らない誰かにすがりついた

君に叩かれたいんだ

世界がそこにあると
僕に血と殴打で教えてくれ
絶望は激痛よりも苛酷なことを
その一瞬だけ忘却するんだ
そのかすかな安堵を、僕にくれないか









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