八重桜の木の下で
「べつに、変身したくてしてるわけじゃないけどな。誰になるかも選べ
ないし。それに今回は、本気でヤバかったらしい。誰にも変身しなかっ
たんだ。離脱したまんま、気づいたらこの裏山で、ふわふわしてた。」

「変身できないと、どうなるの?」

「おれもこんなこと初めてだったからなあ。自分のカラダに会いに行こう
にも足がないし、どうしよっかなーと思ってた時に、声が聞こえたんだ。
『二度と自分のカラダに戻れないかもしれないみたいだけど、なんか
思い残すことある?』って。」

「戻れない、って……」

「二週間以内に戻れなかったら、それ以上はカラダがもたないってさ。
そうなる前にやっておきたいことがあったら叶えてやる、って言われて。」

「もたないって、死ぬってこと?」

「ああ。でもさあ、死ぬかも知れないって時に『小崎になりたい』って口走
ったんだよな、オレ。なんだそりゃ、って自分で言っててちょっとウケた。」
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