ただ、その一言が言えなくて。
「美奈ー!!!早く行くよー!!!」

「はぁーい…」

悠美からのお呼びだし。

いや、合図してもらっている、のほうが正確だろう。

まだ踵の踏まれた跡のないローファーに足を滑らせる。


「行って来まーす…」

母も父も仕事で忙しく朝は居ない美奈の家だが、何となくそれを言うのが日課だ。


ドアを開けると春らしい日差しが入り込む。

「おはよ…悠美…。」



キレイにハーフアップにされている悠美の髪は、朝の日射しに晒されて茶色がかっていて。

そんな悠美のくりっとした瞳が細くなり、私に向けて微笑んだ。


「おはよっ!てか行かなきゃヤバいよ!?」


そう、私と悠美の通う一番校とやらは大分遠いのだ。



通学用に買った新しい自転車に飛び乗り、急いで駅へ向かった。




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