野獣の誘惑
「柚……お前、タイミング悪すぎ」
「え? どういうこと?」
状況が全く理解出来てない柚は首を傾げる。
その横で男達が「やべぇ! めっちゃ可愛い!」と歓喜しているのが視界の端に入った。
もし柚がこの場に来てしまったら、彼女も巻き込まれてしまうだろうと予想していた俺の予想は見事的中。
なんたって柚は、10人いれば10人が振り返る美人。
活発的な性格に似合ったショートヘア、人懐っこい笑顔を向けられた人間はすぐ彼女に魅せられてしまう。
「ねぇねぇ! キミも俺達と一緒にどっか遊びにいこうよ!」
「俺、2人なら大歓迎だよ!」
先程にも増して興奮している俺達。
柚はオドオドと戸惑いつつも、「学校行かなくちゃいけないので、ごめんなさい」と丁寧に頭まで下げた。
こんなやつらに何もそこまでしなくてもいいだろうに。
「行こう」
「あ、……うん」
柚が俺の手を引く。
俺はされるがまま、柚に体を引っ張られ──なかった。
「それは出来ないなぁ」
金髪の男が、もう片方の俺の腕を掴んできたからだ。
「こんな上玉、逃がすわけないっしょ」
「そうそう、大人しくついてきたほうがいいよー?」
さっきまでのおチャラけた雰囲気はどこにいったのか。
男達の目は笑っていなかった。
それどころか握られた腕は男が力を強めたことによって痛みを伴う。
俺は痛みに顔を歪めた。