野獣の誘惑
「おい」
──あ、これはヤバい。
ドスの効いた低い声が、柚から出された。
さっきまでの柚とのギャップに、男達は一瞬誰の声だか分からなかったらしい。
キョロキョロ辺りを見渡した後、男達はまさかという表情で俯いている柚を見つめた。
「さっきからぐちぐち聞いてれば……。折角こっちが丁寧に愛想よく断ってやったってぇのに」
突然豹変した柚に、男達は無様にも口が開きっぱなしである。
「脅しかけねぇと女捕まえられねぇとか。そんでも金玉ついてんのか!」
「きっ……!」
(そんな言葉、女の子が口に出しちゃダメだろ!しかも公衆の場で!)
いつの間にか解放された腕を撫でながら、ヒヤヒヤと事の成り行きを見守る。
柚に呆気をとられていた男達も、頭に血が上ったのか顔が真っ赤だ。
「てめ……! 女だからって調子乗りやがって!」
先に手を出してきたのは金髪だった。
柚をめがけて腕を振り落とす。
普通なら焦る場面なのだが、俺はいたって普通だった。
なぜなら──。
「うおっ」
柚に当たるかと予測された金髪の拳は、柚が上手く軌道をずらしたお陰で当たらずにすんだ。
その隙に柚は体を一回転させて金髪の腕を両手で掴む。
そのまま柚は腕を勢いよく引っ張ると、金髪の体は宙を舞い一回転して地面に投げつけた。