一歩
ふと、教室に視線を戻すと、私の右側で一人、ぽつんとお弁当を食べている子がいた。
…“悠莉”だ。
“悠莉”も一人でお弁当を食べていた。
“悠莉”は私の視線に気付くと、にこっと笑いかけてきた。
その笑顔をどうしても無視できない私は控えめに口角を上げた。
「ねぇ、その卵焼きおいしい?」
私のお弁当に入っていた卵焼きを指差す“悠莉”。
「え、わかんない」
「んじゃ、一口ちょーだい」
返事する前に“悠莉”は私のお弁当から卵焼きを一つ取って、ぱくりと口の中に入れた。