一歩
「ひっ」
女は短い悲鳴を上げて、体をブルブルと震わせた。
「もし、これ以上杏里に何かしたら許さねぇからな」
そう低い声で言った優輝は女の手をぱっと離した。
女は震える足をなんとか前へと踏み出し、他の仲間と共にくもの子を散らすように逃げていった。
その光景を見ていた野次馬も、事が過ぎると、バラバラとそれぞれの教室へ戻って行った。
「杏里、大丈夫か?」
優輝はさっきまでとは違う、いつもの優しい口調で私にそう問いかけた。