‐月のしずく‐
「え?」


春日は目を丸くして驚きながら、俺を見た。


「あ……」


正直、俺も驚いた。

春日の腕を掴んだのは、ほぼ無意識だったのだ。


……彼女の腕が思うよりも細いことに、心の中で驚きながら、腕をそっと離した。


「……ごめん」

「別にいいけど……変なの」


不思議そうに俺を見たあと、春日は走って戻っていた。


春日が振り返った時、髪から微かに鼻に掠めた…シャンプーの良い香り。

それに心臓がドクンッと跳ねて高鳴らせても、先程からある切なさの方が俺の心は勝っていた。


「…………」


俺はじっと、春日の後ろ姿を見つめていた。

そしてゆっくりと、さっき春日の腕を掴んでいた手に、視線を移した。


……切なさは、倍増する。



彼女のことが、知りたいのに。


行動をいまだに、一歩も踏み出せない自分。


彼女のすべてを知りたいんだ。

あの涙の理由も、悲しく、そして切なくする理由も。


春日が好きと気付いた時、初めにそう思ったじゃないか……。


だけど彼女に聞く勇気が、いまひとつない。

聞いたとしても、春日は教えてくれるのだろうか。


俺は手からまた、春日に視線を移す。



このもどかしい気持ちに、どうも俺は春日に対して……一歩も踏み出せない。

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