‐月のしずく‐
「春日……」


俺が小さな声で呟くように名前を呼ぶと、春日はゆっくりと振り返る。

「阿部?」

「隣、いいか?」


俺と目が合い、俺はそう問う。


春日は隣をちらっと見たあと、俺に視線を戻し、「いいよ」と言った。

俺は少し距離を離し、春日の隣を座る。


向こうのキャンプファイヤーの火が、赤く燃えてるのがよく見える。


……しばらく、二人の間に沈黙が流れた。


聞こうとも、言葉がなかなか出なかった。


「……月って、不思議だよね」

春日が、口を開く。


隣を見ると春日は、真っ暗闇の空を見上げ、それを照らす…満月を見ていた。


俺もつられて、空を見上げる。


真ん丸で、黄色っぽくて、白い…満月。



何が、不思議なんだろう。

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