‐月のしずく‐
「月って、人を狂わせるって本当だ。それに、時には切なくさせたり、感動させたり……。別に何も、変わることはないのに」

「……………」


一言一言、ハッキリ春日はそう言って。


俺は月をじっと見た。



不思議、か……。


「私も、月に散々、狂わされた……」


その言葉に、俺は春日に驚いた顔で見た。


だけど春日は、月を掴むように手を伸ばし、真っ直ぐに月を見上げていた。



悲しみも、怒りも、切なさも全部…含めた瞳。


俺は、目が離せなかった。


だから、決意した勇気を、踏み出した。



「俺……お前が、わからない」

「……え?」


春日が目を真ん丸にして、こちらを見た。


俺は言葉を慎重に選ぶように話す。


「強気で、元気で、真面目な奴って、思ってたのに。お前が泣いたとこを見てから……」

「な……っ」


俺は今、春日を見れていない。

視線の先はまだ、満月だった。


…聞けても、春日の顔を見れなかった。

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