‐月のしずく‐
「阿部っ、どこ行ってたのよ!」

「スマン」


春日の所へ行くと、やはりご立腹の様子。

俺は苦笑しながら謝った。


…やっぱり、春日はいつも通り。


あれから、切なそうな顔をしたりはしてない。


強気で、元気で、真面目。


皆に与えてる印象のまま。



“月に狂わされちゃったんだ”


春日の言葉が頭の中で響く。


“散々、月に狂わされた”



彼女は月に、何かを想っていると言うのか。


ミッチーが言ってた通りに、心の中に何かを……。



わからない。


なぜ俺は…彼女のことを知ることができない?


…知りたいのに。



俺が、春日の傍に、いたいと思うことは許されないのだろうか?


あーあ、なんか泣きたい気分。


俺は目頭を押さえて、その場に佇んでいた。



そのあと、春日にこっぴどく怒られたのは……言うまでもないけど。



俺、それでも春日のこと、好きと思うのは……どうしようもないくらいだ。

.
< 30 / 35 >

この作品をシェア

pagetop