‐月のしずく‐
彼女の涙を、見ただけだ。


それだけだ。

何でこんなに…気になるんだろう。


俺はわからないことに焦り、ずっと手で胸をさすっていた。


落ち着け、と。


「阿部、早くそっちして」

「あ、ああ」



だけども、落ち着くことなんてできない。

だって、春日が白い手を見せるたびに、俺を見るたびにドキッとしてしまうんだ。


そう一々、変に意識してしまう。


なぜだ、なぜこんなに……。



俺は落ち着こうとしたのが尚更、焦ってしまったのだ。


そんな俺はずっと、2人だけでいる時間を緊張していた。



緊張って……どんだけだよ。

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