‐月のしずく‐
「いや、別に」

「あっそ。じゃ」


俺はア然と彼女の帰る姿を見ていた。


だけど…はっと気付いたんだ。



彼女の肩が…微かに震えてたことに。


俺は直ぐさま春日の肩を掴み、振り返らせた。

そして、目を見開いた。



「……おい?」

「…………っ」


春日は、泣いていた。


いつも強気でいる瞳からは、溢れんばかりの涙が流れていて。


それはまた、あの日の涙とは違っていた。


まるで、なにかに怯えるように。



「み、見ないで……」


春日は俺から目を逸らした。


「……………」

言葉よりも先に、体の方が動いた。



「……阿、部?」


震える声で俺の名前を呼ぶ。



俺は彼女を、そっと抱きしめたのだ。

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