inosence


「初めまして、久堂蒼(くどう あお)と言います。春までの短い間、臨時として教えることになりました。よろしくお願いします」


ガラス細工のように繊細に磨かれた、日本人離れした顔立ち。180㎝はありそうな高い身長にすらりと長い手足。

そして低く、耳に心地よい余韻を残す声。金髪じゃなくこげ茶の髪が青い瞳と白い肌によく似合っている。

男性に対して息をのむほど綺麗と思うのは、生まれてはじめてだった。



扉が開くまではにぎやかにそれぞれ話していた他のみんなも、いつの間にか黙ってその先生をじっと見ていた。

今までにないふしぎな静けさの中、その先生…久堂先生は、目元をゆるませてやさしく微笑んだ。

そんなとびきり素敵なひとの微笑みに、体温が急に上がったように身体中が熱くなる。


わわ、どうしよう。緊張する!わからない問題がさらにわからなくなりそうだよ…。



そのときふと、久堂先生と目が合った。ドキッとしてあわてて窓の向こうをみると、真っ白で花びらのような初雪がふっていた。


…きれい。


熱を癒してくれるような、淡い雪。そっかぁ、二学期ももうすこしで終わっちゃうんだ。あとでエミに初雪のこと報告しよっと。


そう考えてから黒板のほうをみると、久堂先生はさっきみたいな微笑みはなく、大切な何かを思い出しているような、切ない瞳をしていた。

…そんな風に、みえた気がした。






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