inosence
「…あ、そうだ、テスト用に美術の教科書とってくるね。昨日いこうとしてたけど忘れちゃってた」
「そっか、わかった。玄関で待ってるよ」
そのままエミは下へ、美術室は四階にあるからわたしは階段をのぼった。
テストが近いおかげで部活もなくて、帰りのSHRが終わってだいぶ経ったこの時間は、すっかりひとがいなくて静かだった。
学校は誰もいない夕方と夜の教室が好き。窓からみる景色がとてもきれいだから。とくに夜景は陽が沈むのがはやい冬だけの特別。
それにこの高校は海の町に建っているから、窓の遠くには夕焼けに輝く海が見える。
そういう景色を見るために、部活帰りにひとりで教室によるのが、わたしのささやかな秘密でもあり幸せだった。
目的の美術室の近くまできてあっ、と気づく。
部活ないなら先生いなくて鍵かかってるよね…忘れてた。職員室まで鍵をとりにいくのはちょっとやだな。
うわぁ~損しちゃった。エミも待たせてるのに。
でももしかしたらってこともあるし、一応、念のため、開けてみようかな。
でもたぶん開いてないよね、と予想しながらダメ元で扉に手をかけてみる。
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