短編集

まとめていたはずの髪は、いつの間にか解かれていて

額から鼻筋、瞼から頬へと濡れた唇は彷徨う。

その手は腰に回され、気恥ずかしさに動く身体は固定される。

今だ、交わる事のない唇と唇。

首筋に感じる息遣いに鼓動は高鳴るばかり。

チクリと甘い痛みが走り、ただただ、熱に溺れるだけ。

ふと、身体が離れる気配に閉ざしていた瞼を開くと

視線の先には、同じように熱で溺れる彼の姿。

交差する視線の中、息をも奪われそうになる情熱的な唇。


「駄目だよ、まだ」


乱れたYシャツ越しにみえる鎖骨はしっとりと汗ばみ、欲を引き出す。

頬を髪ごとすくい上げ、今度は触れるだけの口付けを

壁越しに追いつめられた私に、逃げ場はない。

手は宙をかき、緩んだネクタイを掴んだものの

激しさを増した口付けに腕の力は無くなる。

床に手をつく私と彼の手の上には、解けた赤いネクタイ。


まるで、糸のようだ。


おわり
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