短編集
雨は、嫌い。
膝を抱え、ただ、流れるだけの番組も全てが雑音にしか聞こえない。
意味もなく座る事に飽きてしまい、立ち上がった私の耳に聞こえた音。
濡れた髪が頬に張り付き、全身を濡らす彼は「参った」表情を浮かべている。
「急に降り出したものだから」
そんな彼の頭にタオルを被せ、少々乱暴に拭く私の手首を捉え
ぐしゃぐしゃになった髪に文句も言わず。
「ありがとう」
水で重さの増した鞄を抱えようとした私を止め、慣れた足取りで廊下を歩く。
聞こえる温かなお湯の音。
扉に寄り掛かり、その音に耳をすませ目を閉じるも
相変わらず雨は降り続けている。
「上がるよ」
茹であがった彼の頬は赤みを帯び、乾燥機に衣服を詰め込む私の背に声をかけた。
「押し掛けてごめんな、止んだら帰るから」
申し訳なさそうに笑う彼、静かな部屋に今だ聞こえる雨音。
沈黙と視線に耐えきれず出ようとした腕は掴まれた。
「止みそうになかったら」
至近距離での会話に頬を赤く染め、掴まれた腕の感触が肌にまで伝わりそうで。
「止まないと思う」
俯きがちに零す私の声に、少し照れくさそうに微笑む。
「そっか」
雨は、嫌い。
全てを洗い流すかのように降り続けるから。
でも、今だけは。
おわり