”オモテの愛” そして ”ウラの愛”

「綺樹。
 少し、飲もう」


プライベート用のリビングへ続く、もう一つのドアを開けた。

綺樹が来るのを待っている。

フェリックスの威圧的な雰囲気が薄らいでいたこともあって、綺樹は煙草を消すと立ち上がった。


「日本はどうだった?」


暖炉の前の一人がけソファーに座っていると、ブランデーをなみなみと注いで渡される。

こんな注ぎ方をする酒じゃないだろうと思ったが、飲むのが好きな綺樹は何も言わなかった。


「あんなもんじゃない?
 客の入りはいいみたいじゃないか。
 これでウルゴイティ美術館の名も少しは知名度が上がり、観光客を引っ張れる。
 なぜ?」


自分はブランデーに適した量のグラスを手に、もう一つの一人がけソファーに腰を下ろした。
< 73 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop