”オモテの愛” そして ”ウラの愛”
「そうか、何も無かったか」
フェリックスはグラスを弾いた。
澄み切った音が響く。
「相変わらず、何人もの女と適度に距離のある関係を持っていたが、おまえには目もくれなかったか」
こういう話になるのは予想がついたはずだ。
綺樹はグラスを傍らのティーテーブルに置いた。
「おまえには関係ない。
仕事に戻る」
フェリックスは構わず続けた。
「あの年頃の男が、一緒に暮らしながら、一本も触なかったとはね。
おまえには全く関心が無いな。
数多くの男を落としてきた、おまえのプライドは、さぞズタズタだろう」
楽しそうに綺樹の横顔をみつめている。