”オモテの愛” そして ”ウラの愛”
「今日は帰る」
涼は立ち上がり、咎める声を気にも留めず、ワインバーを出た。
まだ慣れない香りが自分から立ち上るのを嗅ぐ。
あの朝。
ウォーキングクローゼットに入って、綺樹が立ち去ったことを感じた。
偶然が無い限り、もう会うことが無いのも悟った。
書斎のデスクの上には箱が残されていて、“大学の入学祝に”と書かれたメモが載っていた。
渡すタイミングはいくらでもあっただろうに、なぜ置き逃げなんだ。
面と向かって突っ込みたい。
でも突っ込む機会はもう無い。