”オモテの愛” そして ”ウラの愛”
*
机の上の電話が音楽を奏でだす。
昔ながらの陶器で装飾され、中にはオルゴールが仕込まれているものだ。
綺樹は睨んでいたディスプレーから視線を移した。
専用回線だから、3人にしか教えていない。
父と兄と、さやか。
受話器を取り上げると、共通言語である日本語で出た。
「はい?」
「綺樹?」
忘れられない声に頬が微動する。
「ああ、うん。
久しぶり」
斜め前の机にフェリックスがいる。
綺樹の様子に顔を上げた。
有線のために席を移す訳にもいかない。
フェリックスが日本語を理解しないのが幸いだった。