天国と地獄の境界線がなくなる前に僕はもっとやるべきことがあったのかもしれない
見殺しにして逃げようと思ったが、足がすくんで動けなかった。さらに足首を女に掴まれて、女は目をじっと見てきた。

そんな顔で見るな。

よく見ると何回か挨拶をしたことがある近所に住むおねぇさん。スッピンで声も出せないほどに怯えた顔だけど面影はある。

鬼は両手で女の両足首を掴んで、持ち上げた。

女の手は僕の足を痛いぐらいに掴んだままで、引きづられるようにして鬼の足元へと滑っていった。

太陽の光で逆光になった真っ黒な二本の足は、徐々にその間隔を広げていき、バリバリと骨の砕ける音と共にぼたぼたと肉片や血が、僕へと滴り落ちるのを、ただ震えながら見上げた。

真っ二つになった影から、両手を広げた鬼の影が現れた。


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