天国と地獄の境界線がなくなる前に僕はもっとやるべきことがあったのかもしれない
「おー」

「どうだった?」

 どうだったもこうだったも今は受かってないけど、落ちてはないのだよ。と、そう説明するのが正しいとは思うんだけど。

「天国と地獄の中間って知ってるか?」

「え? なにいってんの? 落ちたの?」

「お、お、お、落ちてはない」

「受かった?」

 受かってはない。でも、落ちてもいない。滑ってる最中ではあるのだけどと答えたいが、言葉としてうまくまとまらない。

「え? 電波悪いのかな? いま天国と地獄の中間にいてるから通話代、結構かかるよ?」

「ああ、落ちたんだ。それ中国でしょ? そのネタなんかネットで見たよ。だいぶ前に」

「ち、違げえよ馬鹿! 中国なわけないでしょ。ちゅごく馬鹿で恥ずかしいオンナだね君は。それはねlimboだよリンボ」

「リンボ? 何それ?」

声のトーンがだんだん冷たくなっていくのがわかる。だけど自分は最初のトーンを守る。引っ張られない。貫く。

「何それって、あの。キリスト教のなんかだよ」

「で、ほんとに落ちたの?」

 という会話をしてから10年が経った。

 この10年には色々とあった。要約すると浪人し予備校に通うがパチスロにはまり、家を追い出されて住み込みでパチンコ屋に勤め、腰を患いホストになり、ノルマがキツくて前の彼女に半分出すからと電話をするが相手にされず、イケメン先輩のテーブルでとりあえず飲むことでなんとか仕事し、必然的に肝臓を患い、その後、1個売ったら5万もらえるという謎の機械を飛び込み営業で売り、驚く程に売れてひと財産得たあとはニートとして世を儚み、世界の終焉を強く望むことに全力を出しだしたわけだ。あれだ。世界系だ。
< 4 / 19 >

この作品をシェア

pagetop