天国と地獄の境界線がなくなる前に僕はもっとやるべきことがあったのかもしれない
 バットで殴られた鬼がかわいそうかというと、実際はひるむだけだし、ブルペンカーに轢かれた鬼もしばらくすると立ち上がるわけで、もちろん銃弾によって倒れた鬼とて、しばらくすると立ち上がって人間を追い掛け回しては髪の毛をつかんで顔面を噛みちぎったりしていた。

 鬼が一体どのような構造なのかがわからないが、物理攻撃が有効ではあるが、それは時間稼ぎにしかならないということがわかると自衛隊は、いよいよ球場全体を爆発させる決断をした。

 自衛隊は攻撃の手を休めず鬼の足を止めながら球場にいた人や近隣住民を手際よく避難させた。

 多くの犠牲者は出ていたが、なんせ怪我人や死体の数が多すぎて、ものの数分で刺激を受けるという感覚が麻痺していたように思う。もっとも映画やゲームの方が演出がある分良くできており、それに慣れていたからなのと、リアルである現実であるという要素は、安全なところから見ている分には、こぶ程度のふくらみしかなかった。モニターの向こう側で起こってることってのはそんな程度なものだ。

 しかし、球場の真ん中に半径一キロぐらいを破壊させる爆弾ともなると話は変わってくる。

 いよいよ爆弾が投下されようとした時、それまで絶叫していたアナウンサーも黙り込み、画面に文字は消えて、あらゆる雑音がなくなった。

 爆弾が投下されて煙がもくもくと広がる。その画面に日本国中、世界中? が、注目した。

 煙が風で流されて、穴のあいた元球場には、大きな人影が現れた。

 その人影が、ぐっとしゃがんだ瞬間に、画面は真っ白になって映像は途切れた。

 その同時刻には主要都市の駅周辺にも鬼は現れていたわけで、おそらく全世界にも現れていたのであろう。

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