短編集
「あいつが若君を狙ってたんだ、それで、ラーテンとコーラルを殺した!」
「落ち着け。お前は飛び込むなよ、殺されるぞ」
俺は『若輩者』を止めてから『レフト』の状態を見た。数時間前に殺された『からす』同様、一撃でやられている。今にも動き出しそうなきれいな顔をしているのに、その口から低い声が発する事は二度とない。もう動かない。
俺は整理し切れない思考を一度放って、ラシードを見つめた。
「どういうつもりだ、ラシード」
「違う、俺は、止めろと言った!」
「あぁ、聞こえた。だがお前はそちら側にいる」
俺の手下を殺した側に。
俺を殺す側に。
そう言うとラシードは急いで首を振った。そして俺の方へ近寄り、ため息混じりに妖怪たちを順々に見ていった。
「俺はずっとこいつらに反対して来た」
「何を反対した。俺の暗殺にか」
「あぁ、そうだ。お前を殺して席を空け、狐を入れると言う馬鹿気た計画にだ」
今にも飛び出して行きそうな『若輩者』を掴み『レフト』の身体を持ち上げた。三つを手中に収めたところで、俺はヴィクセンを見る。何故か。ラシードが彼を見ていたからだ。
「ハールーンは殺さないと約束したはずだぞヴィクセン」
「それは、お前が愚かな天狗の参加確認に行く前の話だ」
「何だと」
「その後、残った妖怪と話した結果、やはり殺す事になったのだ」
ヴィクセンはゆっくりゆっくり、まるで子供にでも話しているかの様な口調でそう告げる。怒りが込み上げて来ているらしいラシードはヴィクセンから視線を反らさない。結局俺は殺されてしまうのか。やはり狐の嫉妬のせいで。
「所でヴィクセンにはいつから百鬼夜行の参加許可が下りたんだ。うちの『レフト』だてその情報を知らなかったぞ」
「許可が下りたのはつい最近だから知らなくても無理はないだろうな。でも一部の実行委員との裏取引があった。だからヴィクセンはお前を殺そうと百年前から計画していたんだ」
「表立って、許可が下りるとはな」
「条件付きだハールーン。俺はこの世の全ての妖怪に忠誠を誓ったのだよ、お前以外の全ての妖怪にな」
ヴィクセンは言う。