短編集
「ここら辺、探すぞ」
「どうぞ」
男はテレビの近くを探し始めた。俺は隣の部屋を探そうと思ったがまた無用心と言われるのではないかと思ったので同じ部屋を探す事にした。
俺の部屋は狭い。大きく分けると三つに区分出来て、台所、リビング、寝室となる。入った正面のリビングの中央には小さな机を置いている。一番奥にはテレビがあり、その左には雑貨を入れている棚がある。
この棚を壁伝いに行くと台所に行く。反対側は本やCDを並べた棚があり、その棚伝いに壁を見ていると寝室への仕切りが見える。寝室には服と布団と実家から持って来た箱詰めされたままの荷物が、台所には一般的な調理器具や食材が置いてある。男がテレビを探すなら、隣の棚でも探してみようか。
左の棚を探し始めた俺はふと、黒い二十センチくらいの固形物を頭に浮かべた。イメージは四角形で縦に長い真っ黒な箱である。だが炭みたいな固形物かも知れない。炭の様な形をしているただの固形物なら少しだけ怪しい。
……毒性があったらどうしよう。
いや、彼女が出て行って数日経つが俺に体調不良の兆候はないな。固形物に毒性はないか。そういえば男は「あまり口にしてはいけないもの」とか言っていたな。つまり普段使う様な物ではないのか。リモコンとか充電器とかなら口にしても問題ないし。
となると探すべき物は絞られてくる。条件が一つ増えた。普段使わないものだ。
「宮城くん」
ふと、俺は声の方に目を向けた。
「地デジ化には成功したんだ?」
「あぁ、そうなんですよ」
俺の部屋は昔ながらのブラウン管テレビだった。だから地デジ化すると聞いた時、少しばかり世間と電波を恨んだものだ。確かそれで彼女とも言い合いをした気がする。
これも些細な事だから詳しくは覚えていないが、マンションがアンテナをつけてくれるからテレビは一新しなくても良いと聞いていたのに、俺の部屋にあるテレビは古すぎて対応出来ないとか何とか理由をつけて彼女はテレビを買い換えろと言ったのだ。結論から言うとテレビは買い換えた。
冒頭で言った言い合いとはまた別の日に彼女とケンカをしてしまって、その時に彼女が俺に向かって投げたリモコンがノーコンのせいでテレビに当たり画面をダメにしてしまったからだ。
画面を割るほどの威力があるリモコンが俺に当たらなくてよかったと笑いあった記憶がある。
「ここにはなさそうだ。台所、探しても良い?」
「はい、どうぞ」
男は足元を見ながら台所へ進んでいった。
床に散らばっているのはゴミではない。少々の衣類と雑貨だ。よくよく見ると俺の部屋は散らかっているが清潔感はあるらしい。ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てていたからだろう。食べ残しなんかはない。
彼女が出て行ってからご飯は数回しか口にしていないからあっても量は少ない。