短編集
三ヶ月前に俺を銃殺しようとした彼女。だけど俺は生きている。彼女は殺せなかったから俺にさよならと告げたのだろうか。いいや違う。だって彼女はあの時、引き金を引かなかったじゃないか。俺に危害を加えない為に、俺を殺したくないが為に引かなかったのかも知れない。
だけど今日、彼女は俺に電話をして、この部屋にやって来た。期限が終わったとでも思ったのか、それとも思いなおして期限の日に俺を殺そうと思ったのか。
過程と理由はどうであれ、
彼女は、死んだ。
俺を殺せなかったがために死んだ。なんて事だろう。
「どうして」
「どうして?」
俺の言葉を呑み込む様に男は同じ言葉を口にした。だけれど答えは見つからない。俺の頭は疑問と不安で混乱していた。
そもそも知り合いとの賭けに殺すなんて言葉が出てくるだろうか。殺し屋? そんなのどっかの物語の中にしか居ないはずだろう。どうして。
「それは、俺と彼女が犯罪者だから、かな」
なんだよそれ。どうして。
「俺が、五年前に彼女の両親を殺したから」
五年前なら、俺は彼女と出会っていない。勿論、記憶を遡らせても誰かの両親が殺された、なんてニュースは覚えていない。覚えているはずがない。日々繰り返される事件を逐一覚えている訳がないじゃないか。
それでも俺は思いだそうとした。知るはずのない事件の詳細を、鮮明に思い出そうとした。
「彼女はその仕返しに俺の両親を殺したんだよ」
男は淡々と語っていく。俺は聞きたくもないその話を寝室の前に立ち尽くしたまま聞いていた。
目の前に広がる真っ赤な寝室に倒れこむ彼女。生きている訳がないとは思いながら、生きていてくれと願う事しか出来なかった。
近寄る事も遠ざかる事も出来ない。
「賭けをしたのは、俺の命を護りたかったからだ」
「あなたの」
「そう。彼女は親を殺した俺を心底憎んでいたから」
「あなたは、どうして彼女の両親を殺したんです」
「彼女が好きだったから。宮城くんと同じ様に」
酷く歪んでる。
俺はそう口にした。だけれど男は少しだけ笑っただけで何も言ってくれない。俺は背後にいる男の口からしか真実を知る術を知らないのだけれど、その術はあまり役に立っていなかった。
いや、俺の思考がついていけてないだけかも知れないが。
「彼女は」
「俺が殺したんだ」
男は悪びれない。人殺しって皆こういう風なのだろうか。まるで自分が正しい事をしたみたいに振舞っている。楽しそうに語る口調が苛立たしい。
それ以上にこの状況を打破出来ない俺の方が腹立たしいが、俺は未だに一歩だって動けちゃいない。
「何で殺したりしたんです、好きなのに」
「好きだから殺した」