短編集
 俺は天狗だ。歳は七百を幾つか過ぎたくらい。普段は歳の事など忘れているのだが――百年前の訪問時に天狗仲間のラシードが「俺はようやく六百歳になったんだ」と鼻高々に言っていたので――確かだ。

 人間共は何を考えたか真っ赤な鼻と羽団扇を持たせた絵を描きたがるが、姿は想像に任せよう。言った所で誰が信じるでもない。



「若君、来ました」



 一番年長の『からす』の一言で俺は目を開き身体を起こした。そう、何年も前からこれを待っていた。“百鬼夜行”の知らせだ。百年に一度開かれる妖怪の集まり。もとい祭りだ。選ばれた百の妖怪だけが参加出来る祭りである。初夜にはくだらない知識のひけらかしや人間から身を守る術等の会議があるが、二日目は飲めや歌えやのドンちゃん騒ぎが行われる。

 一日目は人間への悪態を並べ、二日目はこの上ない程に遊ぶ。俺はそれを楽しみに生きているとっても過言ではない。それ以外はあまり他の妖怪と接する事がないので「非協力的だ」と言われた事もある。他の妖怪共は人間からいかに身を守るかが最重要らしい。



「やあ、若君に会いに来たぜ」



 洞窟の入り口から叫ぶ声がした。懐かしい声だ。例の百年前の訪問者、ラシードである。俺はまだ俯いたままのからす天狗『レフト』を掴み、入り口の方へ投げた。



「おっと、過激な歓迎どうも。大丈夫かいコーラル」


「……平気です。ありがとう」



 『レフト』がそのままラシードを奥まで案内し、俺はようやく彼と再会する事が出来た。ラシードが差し出す手を取り、俺は言う。



「久しぶりだなラシード。今年もお前が実行委員か」


「五百年も続けりゃ辞められないさ。祭りは楽しみかい?」


「勿論だ。俺はあれに参加する為に生きてるんだからな」


「ははっ、ならこれからも席を奪われない様に気をつける事だ。ほら、証明は?」


「あぁ、ここに」



 俺は紙を一枚ラシードに手渡した。これは百鬼夜行の参加証の様なものである。毎回百鬼夜行の三日目にはこの紙を賭けた勝負が行われる。前二日に参加出来なかった妖怪も含め、次回の百鬼夜行に参加したいと願う全妖怪が終結して戦うのだからそれは壮絶だ。

 勝った者の手下は出入り自由なので勝者に取り入る輩が後を絶たない。勿論俺は前回の勝負に勝っている。どいつかの手下になるなんざ死んでもごめんだ。



「はい。確認した。そう言えば今回は、ろくろ首のアルフと女郎ぐもの姐さんも来るらしい」


「へぇ、楽しくなりそうだな。二人が揃うなら」


「まだ喧嘩は継続中らしいがな。問題だけは起こさないで欲しいよ」

< 3 / 69 >

この作品をシェア

pagetop