短編集
俺に行かないと言わせたい『からす』はひたと俺を見つめて離さない。『若輩者』は『レフト』の右翼がもがれたのは俺のせいだと言わんばかりに目で訴えている。さてどうしたものか。俺は自分がなぜ命を狙われたかさえ分かっていないのだ。なぜ俺が死んで丸く収まるのだ。百鬼夜行には生まれてこの方七回は参加しているが、こんな事になったのは初めてだ。
「残りたいなら残るがいい」
「若君! よもや河童池に向かうと言うのではないでしょうな」
「何を言われても俺は行く」
「しかし、命を狙われているのですよ。参加はご辞退下さい」
「だが一度決まった参加は死ななければ撤回にならない。だから誰かさんも俺を殺しに来たんだろうが」
「ううむ」
『からす』の悩む姿を見て、ふと俺は例の薬品を思い出した。仮死状態になる薬。それを迷わず俺に使った『レフト』には感謝しなければならないが、俺は俺自身の強運にも感謝した。誰かさんが死を確認しなかったのは救いだったのかもしれない――俺は死んでいる体なのか。なら一層早く河童池に向かわなければいけないな。
もし俺の後釜がいるのなら、それより先に着かなければ。あるいは百鬼夜行に参加できなくなるかもしれない。
「急ぐぞ」
「しかし、若君、コーラルは置いて行かなければなりませんよ」
「何故だ。連れて行けばいいだろう」
「羽根がなきゃ飛べねぇだろ。それとも若君が背負って下さるってのか?」
「飛べなきゃ運べ『若輩者』。嫌なら黙って留守番でもしてろ」
「……なりません、若君」
ふと心臓に響く低い声。『レフト』である。奴はゆっくりと顔を上げると両の二つを振り払って力なさげに俺の方へ寄ってくる。だが手の届く距離で奴は地面に落ちて行った。
「若君を狙っているのは、百鬼夜行に参加する妖怪です。行けばどうなるか」
「分かってるよ。だから行くんだろうが」
「……私も、連れて行ってくれますか」
「俺はお前を連れて行かないと言った覚えはない。犯人を突き止めるのだからお前も来て当然だ」
「で、誰が背負うんです」
「二度言わせるな。お前が運べ『若輩者』」
言い切って命令すれば、逆らうものは『若輩者』しかいない。だが奴を牽制するのは『からす』の役目だ。下が文句を言えば上がうるさいと叱る。どの種族も年の食った者には敵わないのだろう。