短編集
「じゃあ俺の血をあげるよ」
「RHマイナスなの?」
「知らない。でもO型だよ」
「…・・・私はAB型よ」
「O型は万能供血者だから」
「そうなの?」
「そうだよ。AB型は万能受血者だし」
「すごい。じゃあ助かるのね?」
「一回だけね」
どこかの本で読んだ事があったのだ。一度だけならマイナスにプラスを輸血しても大丈夫だと。
今の話は、それがO型からAB型なら尚更大丈夫なんじゃないかな、と俺が勝手に解釈をしただけなのだけれど。
「二回目はどうするの」
「キミは二回も事故に巻き込まれるの?」
「巻き込まれないと言い切れる?」
「言い切れないね」
――可能性は極端に低いと思うど。
「やっぱり死ぬのね、私」
「……大丈夫」
「どうしてそう言えるの?」
「俺の友達にAB型いるから」
「その人、RHマイナス?」
「多分」
「本当に、本当?」
――嘘だ。俺にAB型の友達はいない。
「じゃあ助かるんだ。ありがとう」
「あぁ、うん。お礼を言われると困るな」
「ふふ。キミが彼氏でよかったわ」
「それ、すごく複雑なんだけど」
嘘をついたのにお礼を言われると、罪悪感が俺の心臓を襲ってくる。だけど止めてくれとも言えない。今さら嘘でした。なんて言ったら彼女の思考はマイナスのどん底に沈んでしまうかも知れない。
――まあ、何とかしよう。
とりあえず今度、図書館にでも行って血液型の勉強をしよう。彼女が安心出来るくらいの輸血の知識を蓄えておくために。
それから、彼女が何かの事件や交通事故で大怪我をする前に、きっと必ずAB型RHマイナスの友達を何人か作っておこう。
「じゃあ事故した時はよろしくね」
「――任せときなさい」
(終)