短編集
「飛んでついて来い『若輩者』今すぐにだ」
「ラーテンは、放って行く気か!」
「そのラーテンの為に犯人を捕まえるのだ。馬鹿者が」
「その前にラーテンを助けてくれよ!」
「奴は死んだ。それくらい理解しろ」
その言葉に『若輩者』は目を見開いた。食いしばる歯。わなわなと怒りに震える身体はやはり小さい。奴もきっと『からす』の様にすぐ壊れてしまうくらい脆いのだろう。奴の言いたい事は分かる。せめて救う努力をしろと言いたいのだ。何とか出来ない事は分かっていても、見せかけの治療でもやってくれと言いたかったのだ。
だが俺は「早くしろ」と奴に告げた。
「で、でも若君、進むなんて! 進むなんて危険だ!」
俺は『レフト』を抱え『若輩者』の言葉には耳を貸さずに走り出した。真っ直ぐ走り抜け、右に曲がる。それから辺りを見渡した。何かが隠れられそうな場所はない。それを確認してからまた少し進んで、足を止めた。遅かった。もう逃げられてしまっていたのだ。『からす』を殺した犯人に。だが俺が足を止めた理由は他にもあった。
しばらくしてから『若輩者』が『からす』を背負ってふらふら飛んで来て、俺から少し離れた場所に腰を下ろした。そして俺を見て首を振った。
「どう、どうなってるんだ若君」
「殺された様だな。全部、銃弾でやられている」
そう。そこにあったのは妖怪の冷たい姿。全部で四、五匹はいる。そんな中でも『若輩者』は『からす』の顔を再び眺めた。『レフト』もそっと立ち上がり『からす』の傍に寄って行く。
俺は奴らの過去を知らないが、三つは兄弟ではないらしい。何処で出会ったのか、どうして一緒にいるのかは知ろうとも思わない。だがあの俺の洞窟に来た時は三人揃って腹を空かせていた。その時は丁度、俺も飯時だったから少しだけ獲物を分けてやっただけ。すると奴らは居座った。俺たちはただそれだけの関係だ。
「ラーテンは、仕方ない。ミリアム」
「じゃあお前の羽根も仕方ないのかコーラル」
「これは、成るべくしてなったのかも、知れない」
「羽根をもぎ取られる事がか?」
「羽根の代わりに、若君を守れた」
俺は奴らを知らない。奴らが俺を若君と呼ぶ謂れも知らない。何も知らないのだ。
「ミリアム、若君は守らなきゃいけない」
「分かってるよ。そんな事。分かってる」
なのになぜ俺を守る。そんなに飯が大事か。つい口から出そうになった言葉を飲み込んで、俺は『レフト』と『からす』を両手に持ち上げた。それから『若輩者』を見下げて、早く行くぞと促した。