落都

 この虫は内側が柔らかく卵を生み付けるにも最適で、外側よりも美味であることを知っていた。女から離れ、男の喉に潜る。

 血の臭いと腐臭につられたのだろう、仲間が知らぬ間に増えていた。

 ぶうんぶぅんと独特な音が満ちる空間に、飽きて、その虫は窓から出ていく。入れ違いで、がたん。戸から猫が入ってきた。


 開かれたそこから次々と別の物も入ってくる。あるものは蓄えられていた僅かな食料を、またある物は食べ頃の肢体を。来るもの来る物皆、一様に飢えていた。


 月が沈み、無情な陽が変わり果てた若い夫婦を明るく照らす。上から肉を突いていた黒い鳥が眩しそうにカア、と一言鳴いた。

 たまたまそこを通った男がぎらり、家の中へ無遠慮に顔を入れ。


「…にくだ」


 痩(こ)けた顔が、途端に、輝いた。
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