メルヘン侍、時雨れて候
『あんまり言いたかないけどね』

「はぁ」

『約束は守りましょうよ』

「はい」

『別にメルヘンさんが憎くて言うてるんじゃないんですよ?』

はじまった。これは確実に長くなるアレだ。御高齢恒例のアレだ。スーパーハッスル説教タイムだ。

『午前中に何で起きないのか? それはブラブラと定職にもつかないでポエムとか童話を夜中にコソコソ描いて・・・』

「すいませんご隠居。耳が痛いのです。それぐらいで勘弁してつかッサイ」

『いや、やめないね、ちょっと今日という今日はハッキリ言わして貰う』

「あ、あしたにしましょう! ね! 明日。明日までに心の準備とかね。しておきますから。いろいろ調べ物とか資料とかつくっときますし、新しいノートも買っておきますから」

『そうやってね、あしたあしたというてね、世間というのは凄いスピードで変わっていってるんですよ。キミの外見はそんなにかわってないから気がついてないだけかもしれないけどね』

「わ、わかってますよ。ええ。わかってます。わかってるからね、こうして昼過ぎても寝てるわけですよ。午前中なんかにね、外に出るとツラいんですよ。みんな、せわしなく仕事の準備とか出勤でピリピリしててつらいんですよ」

『そうやって10分とかを大事にしてみんな頑張ってるのに寝ててなんともないのですか?』

「なんともないわけがないじゃないですか! だから寝てるんですよ。寝てるときだけが幸せなんですから。それを奪おうってんですかい? え? そりゃ約束忘れてたのは悪いですよ。でも黙って勝手に入ってくることないじゃないですか! 不法侵入じゃないですか! プライバシーの侵害ですよ。ポリス沙汰ですよ! 大きな声出しますよ。 ぎゃー」

『メルヘンさん。メルヘンさんがね、そんなふうにギャーとかアホみたいな顔して叫んでる間や、寝てる間にもね、明日から本気出すとか言ってる間にもね、みんな頑張ってるんですよ』



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